2016年8月18日木曜日

不妊保険

理事長の中村嘉孝です。
保険って難しい感じがします。保険会社のパンフレットをみると、いろんなグラフとか書いてあって、よくわかりません。でも、保険数理の計算は複雑ですが、保険の本質はあまりに単純です。

生命保険なら早死にした時に困るだけの金額、医療や損害の保険なら、病気、事故で生じる費用を、年金なら長生きした時に困るだけ金額をカバーする。ただ、それだけのことです。
私は、死んでも銀行借入をチャラにできるように掛け捨ての生命保険に入ってます。一方で、あまり長生きするとは思わないので、年金は法定のものだけです。リスク・ヘッジが目的なのだから、事故なく無事でいれば掛け金は消えていく。その掛け金をプールして、事故にあった人の損害を補償する。わかりやすい話です。

しかし、現実には貯蓄型だとか配当型だとかいう保険がたくさんあります。生命保険なのに、何歳まで生きていたらと御祝い金が出るとか、よく考えたら意味不明なのですが、そこが人間心理の難しいところです。色々考えているうちに、掛け金が消えていくだけじゃ損した気持ちになるのでしょう。

さて、金融庁が解禁した不妊保険ですが、各社とも商品化には二の足を踏んでいるようです。高額になる体外受精の費用をカバーしようとしているのでしょうが、事前リスクの評価やモラルハザードを考えると、仕方のないことだと思います。
体外受精クリニックの中には、最初に一括して100万とか一定額を預かって、何回までの治療はすべて含むというやり方をしているところもあります。これも一種の保険ですね。

実は当院でも検討したことがあるのですが、ご存知の通り、年令や基礎疾患によって成績が大きく変わってきますので、公平とは言いがたい。また、治療の方針をそのクリニックが決めるわけですから、逆のモラル・ハザードが起こりえます。そんな理由で定額プランは見送りにして、むしろ、引き続き体外受精のコスト自体を引き下げる努力を続けることにしました。
とはいえ、保険の設計が絶対に無理というわけでもないと思うので、ぜひどこかの保険会社が不妊保険を実現して欲しいところです。





















2016年8月13日土曜日

生前退位

理事長の中村嘉孝です。

先日、天皇陛下の生前退位についてのお言葉がありました。しかし、私のような下々が論評するのも何なのですが、退位せずとも摂政を置けばすむだけのことのように思います。

陛下は「民主主義の下の皇室のあり方」というのを真に受けすぎなのでしょう。「国民とともに」ということで行幸にこだわっておられますが、実際のところ、雅子妃とか佳子さまとかが来られる方が喜ばれるでしょう。

服喪が与える影響についても語っておられますが、むしろ、かかる儀礼、式典こそが、皇室の最も重要な役割です。現代社会において非合理と思われる儀式を粛々と執り行う姿に、我々は畏怖し恭敬するのです。個人の存在を超越する力への跪拝。それは神話を誰も信じなくなった現代においてもなお、人間から消えることのない心性であり、あらゆる政体の礎なのだと思います。

むしろ、心に響いたのは冒頭の「社会の高齢化が進む中、天皇もまた高齢となった場合、どのような在り方が望ましいか」という問題意識です。残念ながら後に続くお言葉の中では深く掘り下げられていませんが、象徴としてのイメージこそが問題で、活力を失った社会を表象してしまうことを懸念しておられるように思います。

さて、ご存知の通り皇太子妃ご夫妻は不妊治療を受けられて、内親王を授かられました。女性天皇の議論もありましたが、現在の皇室は、少子高齢化、女性の社会参画など、まさに日本社会を象徴しているようです。

弊法人では生殖医療とともに介護事業も行っていますが、私自身、高齢者の尊厳を守りながらも活力を失わずに新しい世代へと新陳代謝していく社会であって欲しいと、常々、思っています。













2016年7月25日月曜日

幽霊

理事長の中村嘉孝です。

カルフォルニア大学が主催の体外受精のセミナーでサンディエゴに行っていました。

最新のトピックスがよく整理されているセミナーで、男性不妊、TESE(精巣内精子回収術)、PGS(着床前診断)などの話題がとても参考になりました。

ERA(子宮内膜着床能検査)のプレゼンテーションもありました。最近、ますますERAの重要性が認識されるようになってきているようで、プレゼンの後にはマイクの前に長蛇の列。質問の時間をたっぷり取っているセミナーだったのですが、唯一、時間切れになったプレゼンテーションでした。

卵巣刺激法については弊院が以前より提唱している通り、きちんと刺激した上で全胚凍結するのがやはり一番成績がよいという認識でした。もちろん排卵刺激はOHSS(過剰刺激症候群)の危険と隣り合わせですが、その周期で移植をせずに全ての胚を凍結することで危険を回避できます。

さて、会場はHotel Del Coronadoというホテルで、ビーチサイドにあるビクトリア様式の建築が目を引きます。ここが歴史ある名の通ったホテルだということを、部屋のパンフレットで見て初めて知りました。


確かに各界の著名人が宿泊したり、色々な映画のセットに使われたりしたようですが、なにより驚くのは、人妻との道ならぬ恋で王位を棄てた英国のエドワード8世が、シンプソン夫人と初めて出会ったのがこのホテルとのこと。また、幽霊が出ることでも有名らしく、こちらも道ならぬ恋の相手を待ち侘びる若き美貌の人妻の幽霊。

人妻幽霊との出会いを心待ちにしていたのですが、残念ながら私の部屋には来てくれませんでした。なんでも彼女が泊まったという部屋が一番人気らしく、彼女目当ての客で忙しいのでしょう。

せめてもの思い出に、彼女の名前のついたKate Morganというオリジナルのカクテルを飲んできました。ジンベースの柑橘のカクテルですが、亡霊をイメージさせる白い蒸気を作るために小さいドライアイスが入っていて、「十分にお気をつけてお飲み下さい」とのこと。

美味しいけれどやけどしそうな、危険と隣り合わせのカクテルでした。



































2016年7月6日水曜日

ERAのRCT(ランダム化臨床試験)についてのご案内

理事長の中村嘉孝です。

スマホが壊れて携帯ショップに行くと、「お得なキャンペーン」の話を必ず聞かされます。でも、話がややこし過ぎて、本当にお得になるのかどうかよくわかりません。

その上、パンフレットに「MNP」とか「アドバンスオプション」とか、横文字がたくさん書いてあると、なんだか巧く言いくるめられているのではないかという気がしてきます。

実際、「目先の費用が安くても長期間解約できないプランで困った」、なんて話も聞くので、「ほんとにお得ですから」とか言われれば言われるほど、あやしく思えてきます。

さて、当院では現在、ERA検査の有効性を検証する臨床試験を準備しています。ERAはスペインのIgenomix社が開発し、提供しているサービスで、子宮内膜のmRNAを解析して着床に適切な時期を調べる検査です。

世界の医療機関が参加する大規模トライアルとして行います。先日は、Igenomix社の担当者が来訪され、弊院のスタッフと会議を行いました

内容を簡単にいうと、参加していただける患者さまを、ERAを受けるグループとERAを受けないグループの二つにランダムに分け、妊娠率がどれくらいよくなるのかを調べます。

ERAは検体をスペインまで送らなければならないこともあり、もともと16万5千円する検査ですが、今回の臨床試験ではERAを受けるグループに無償で提供されます。これは、たいへんお得です。

受けないグループに割付られてしまった方は「運が悪かった」と言ってしまえばそれまでなのですが、少々気の毒に思います。そこでIgenomix社に粘り強く交渉したところ、受けないグループの方にも「臨床試験が終わってから一回無償でサービスします」、との回答を貰いました。

ですので、ほんとのほんとにお得な臨床試験なのです。もちろん参加できる医学的基準がありますし、もっと詳しい説明が必要ですから、ご興味をお持ちいただける方は、スタッフにお尋ね下さい。

現在、ヘルシンキで開かれているESHRE(欧州ヒト生殖医学会)に田口、船曳の両医師が出張しており、現地で、研究責任者であるSimon教授と詳細の詰めをしているはずで

ぜひ、この機会に参加をご検討いただきますようお願い申し上げます。


















2016年7月5日火曜日

紅房子

理事長の中村嘉孝です。

中国で、凍結した卵子を使い45才で妊娠したというニュースがありました。仕事に専念するために、ということで18年前に凍結していたそうです。

18年前といえば、当時勤めていた病院で卵子を凍結しようとして、ストップがかかったことを思い出しました。採卵したけど精子がとれなかったという半ば医学的な理由だったのですが、日本産科婦人科学会がダメだと言っているからダメ、ということでした。

日産婦学会は現在も、「社会的な理由での卵子凍結を推奨しない」と言っていますが、一学会が「見解」などという責任の所在のはっきりしない形で事実上の拘束力を持つの
はいかがなものでしょうか。

それにしても中国の科学技術の進歩は早いですね。特に医療の分野では倫理審査などスキップして次々と進んでいくからでしょう。

遺伝子検査で有名なBGI(Beijing Genomics Institute)という会社があります。深センにあるのに、なぜBeijing?、というのは放っておいて、世界的にみて最高水準の技術を持っている会社です。着床前診断や出生前診断の学会でもよく発表を見かけます。

何も野放図にしろというわけでもないのですが、欧米の大学の研究者が「自国では規制があってできないから」という理由でBGIと共同研究しているのを見ると、現状の規制は行き過ぎなのだと思います。

しかし、商業資本による自由な研究活動が、むしろ共産主義国家で起きているのは面白い現象です。

不思議なのは、これだけ技術水準が高いはずの中国なのに、なぜか日本に治療を受けに来る方が多いこと。弊院にもたくさん来られますし、何を隠そう、中国の医療ツーリズムの会社からもよく提携の引き合いがあります

以前、「中国人観光客が自国でも売っているはずの家電を日本で爆買いするのは偽物をつかまされないから」と聞き、納得したことがあります。このような場合は、むしろ、規制によって、より自由な経済活動を促すことになりますね。

ところで報道によると、女性が卵子を凍結したのは、上海の『紅房子婦産科医院』というところだそうです。「紅房子」とはどういうことか気になってこの病院の英語のサイトを見ると、”RED HOUSE”とありました。写真を見ると確かに赤い建物ですが、別に共産主義だからというわけでもなさそうです。

まったく関係ないですが、心斎橋の周防町に『紅虎餃子房』という中華の店があり、ミナミで飲んだ帰りに、よく行ってしまいます。夜中には絶対に食べないと誓っていても、酔っ払ってしまうと坦々麺+餃子セットとか・・・。

こちらの方はもっと厳格な自主規制が必要かと、いつも痛感しているところです。










追記:記事をよく見たら凍結受精卵=凍結胚の話でした。
27才の時に凍結して45才で出産。同じパートナーのものかはよく分かりませんが、技術的には大した話ではありませんでした。
大変、失礼をいたしました。










2016年6月28日火曜日

桃太郎伝説

理事長の中村嘉孝です。

先日、岡山大学で卵子凍結の倫理問題についてのシンポジウムをするから、どういうつもりで卵子凍結をしているのか話すようにと言われ、行ってきました。

岡山大学はエンブリオロジストを養成するプログラムを持っていることで有名です。せっかくなので少し早めに伺って、施設を見学させていただきました。弊院でも研修センター内にトレーニング専用のラボを設けていますが、色々と参考になることがありました。

シンポジウムでは30分の時間をいただき、私どもの考え方について説明しました。厳しい批判を受けるものと覚悟していたのですが、法学者、倫理学者の先生方もリバタリアンの立場のようで、好意的なご意見をいただきました。

さて、卵子凍結についてよく言われるのは、いつまで妊娠を遅らせることが許されるかということ。生殖医学会のガイドラインでは45才は推奨できないとなっています。もちろん、妊娠・出産の合併症リスクは年令とともに高くなりますから、医学的な制約はあります。しかし社会的な観点での制限ということで言えば、リバタリアンの私としては、ご自身が決められることであって、医療機関がとやかくいうべきことではないと思っています。

ところで岡山といえば桃太郎伝説。ご存知の通り、「昔、昔、あるところにおじいさんとおばあさんが・・・」から始まるお伽話ですが、そういえば竹取物語も老夫婦が子どもに恵まれる話です。今とは違って、老夫婦といってももう少し若い年代を指しているのかも知れませんが、それでも40~50才以降には違いないでしょう。

年を取ってから子育てとなれば若い世代のような体力はないかも知れませんが、それでも大事に育てる気持ちがなによりだと、私は思っています。











2016年6月13日月曜日

事業継続計画(BCP)

理事長の中村嘉孝です。

最近、事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)という言葉をよく耳にします。内閣府の防災情報のホームページにも記されているほどで、災害が起きた場合にも重要な基幹業務に支障が来たさないように対策することをいいます。

もちろん、BCPなどという大層な言葉ができる前から、オーク会ではさまざまな対策をしてきました。たとえば、自家発電装置があります。2000年の設立当時は、世間の防災への危機管理の意識も薄くて、「大阪市内で停電などないからムダでは」と設計事務所からも言われたのですが、あえて導入しました。また、万が一の場合が大雪の夜であっても到達できるように、徒歩15分圏内に医師4名が居住しています。

もちろん医療そのものだけではなく、現場を支えるバックヤードの業務についても同じです。現在、オーク会では診療のIT化を進めていますが、仮にシステムがダウンしても安全を確保しながら業務の遂行ができるように、紙ベースでの記録を常にバックアップしています。

東北、熊本と恐ろしい災害が続いています。もちろん自然の猛威に人の力の及ぶべくもなく、どれほどしても万全ということはありませんが、弊院として精一杯の対応をしていく所存です。

そう改めて心に誓っていたところ、さきほど自然災害に見舞われました。危機管理態勢が機能して業務を継続できましたが、今後なお一層、心を引き締めて努力していきたいと思っております。