2017年12月11日月曜日

検査の精度

理事長の中村嘉孝です。

「感度」が100%の検査、つまり、がん患者100人に検査したら100人とも+の結果になる検査があるとします。もし、あなたがその検査を受けて+の結果だったら、あなたががんである確率はどれくらいだと思いますか?

「なに悠長なこと言ってる。がんに間違いないだろう!」

でも、ちょっと待ってください。がん患者の検査結果が+であることと、検査結果が+である人ががんであることは、逆の関係です。

検査の精度は「感度」だけではわからないのです。がんでないのに間違って+になる、つまり、偽陽性のことも考えないといけません。

で、がんでないことがわかっている人にこの検査をしたら、100人中1人は間違って+になったけど、99人は正しいの結果だった。この場合、「特異度」が99%といいます。検査の精度は、「感度」と「特異度」で決まります。

「で、私ががんの確率は?」

すみません、実はよくわからないんです。

「ふざけるな」と思われるかもしれませんが、本当です。例えば、マンモグラフィーの乳がん健診を考えてみてください。

感度80%、特異度90%だったとすると、本当のがんの人の2割を見逃し、がんでない人の1割を過剰診断してしまう、ということですね。

これを表にしようとすると、本当に乳がんであるかないかというのと、検査結果の+と−で、4通りの組み合わせになります。

仮に1000人が健診を受けて、その中にがんの人が20人隠れていたとします。検査の感度が80%だから、16人が+になり、4人は−で見逃しです。逆に、がんでない残りの980人のうち10%は間違って+になってしまいます。次の表の通りです。








そして、+の結果が出たときに本当にがんである確率、皆が本当に知りたいのはそれ。で、+のところを横向きに見てください。+になった人の合計114人のうち、本当にがんの人は16人だけなんです。計算すると、14%ほどになります。 でも、この数字はもともとの集団にどれだけの割合で本当に病気の人がいたか、によって違ってきます。どのような人たちに検査をしたかで、検査結果の意味が変わってしまうのです。 「は?同じ検査でしょ?」 はい、そうなんです。例えば、インフルエンザの検査。のどを綿棒でこすって調べる、あの検査が、夏と冬とでは検査結果の意味が違ってきます。 夏で誰も風邪なんか引いていない時と、冬でインフルエンザの流行期では、まったく同じ検査キットを使っているのに、+の結果の意味が違います。冬には結果が+の人の90%が本当にインフルエンザなのに、夏には1%しか当たらない、なんてことになるのです。 これが確率というものの限界で、だから、実際の診断ではのどの痛みとか熱とか、総合的に判断しないといけません。マンモグラフィーについても同じで、もともと「しこり」があるとか、家系に乳がんが多い、という方では意味が違ってきます。 確率について計算できるのは、もともとの確率、つまり事前確率があるから。検査前の事前確率に検査結果を加味して計算し直し、事後確率を出しているので、単に検査だけでは、確率が計算ができないのです。 このような確率計算の方法をベイズ統計といいますが、ベイズ統計では極端な話、事前確率は何でもいいのです。どっちかわからないし五分五分からスタート、とか、いや7割くらいでしょう、とか完全に主観で恣意的に決めてよいのです。 マンモグラフィーの例をもう一度考えてみます。市民集団健診だから有病率を事前確率にしました。そして、結果を市民全体でみたら確かに当てはまる。でも、それってトートロジーじゃないですか。 確率は何かを母集団と仮定したときに、その中で個別性を無視して十把一絡げにしてはじめて成立するものであって、個人にとって確率とは、原理的に、存在しないのです。 ところが新型出生前検査(NIPT)は、この「原理」によって成り立っている検査なのです。(続く)




2017年11月2日木曜日

NHK生殖医療研究会に出席しました

医師の田口早桐です。

昨日尼崎で、兵庫医大の同窓の不妊治療を専門とする医療機関が集まって勉強会がありました。ホルモン補充周期での融解胚移植についての討論も行われ、結論としては、黄体補充をしっかり行っていれば、胚移植を行う際の血液中の黄体ホルモンの値、胚移植を行ったあとの血中黄体ホルモン値ともに、低くても妊娠率や妊娠継続率に関係ないことが分かりました。

当院では、内膜が厚くなって黄体ホルモンを開始する際に血中黄体ホルモンを測りますが(高いと移植キャンセルになります)、移植時や移植後にはとくに測定していません。改めてそれで問題ないことが確認できました。他施設と意見交換することは大事だと、改めて感じました。















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2017年10月18日水曜日

胎児異常の診断

理事長の中村嘉孝です。先月、ウィーンで開かれていた、ISUOG(国際産婦人科超音波学会)に行っていました。 不妊治療のゴールは無事に元気な子どもが産まれてくること。最近は機器の精度も上がって画像がとてもよく見えますし、妊娠初期の超音波でどんなサインがあるときに胎児に異常が出てくるのかも、段々とわかってきました。 一方で、染色体の異常についてはNIPT(新型出生前診断)が盛んになっており、もう染色体異常については超音波検査の出る幕はないのでは、とか、あるいはNIPTとどう組み合わせるべきか、など超音波の学会でありながら遺伝関係のセッションが数多くありました。 ただ、これらの議論を聞いていていつも思うのは、公衆衛生的観点から話をしているのか、個人としてベストの治療の話をしているのか混同されている場合が非常に多いということです。 また、学会の規制なども影響し、PC(ポリティカル・コレクトネス=ポリコレ)への配慮でごまかしがあったりして、論理的に考えておかしなことがまかり通っています。 例えば、日本では胎児の異常を理由とした中絶は法的にしてはならないことになっており、なにかと言えば「命の選別につながる」という論理を持ち出す学会が、なぜかNIPT(新型出生前診断)の団体(コンソーシアム)を作っており、他の施設がするのはまかりならないが、その団体がするのはよろしい、ということになっています。 本当のところは、一種の『利権』のようなものだと私は思っているのですが、「安易になされてはならない」とか「充分なカウンセリング体制が必要」とかポリコレにかこつけた説明がなされています。 しかし、胎児異常の診断を論理的に考えるとNIPTでカバーできる領域は半分もありません。超音波検査で遺伝疾患以外の異常もカバーし、遺伝検査では羊水で精密な遺伝検査をするというがベストの選択のはずです。 例えば、羊水での遺伝検査は急速な勢いで進んでおり、染色体の微小な欠損のみならず、Whole Exon Sequencingといって、遺伝子レベルでのスクリーニングも行われるようになっています。本来はこの違いを強調して、NIPT の限界を伝えるべきだと私は思うのですが、民間企業の主導による現在の技術の進歩について説明をして薦めることは、なぜかポリコレ的には「よくない」ことで、むしろ、その信頼性を疑う発言がポリコレとしては「正しい」のです。 また、超音波下での羊水穿刺によって起こる流産率は極めて低く、統計的になにもしない場合の流産率と変わらないことが近年の調査で知られていますが、なぜか昔の論文にある300分の1という数字をわざわざ持ち出してきて、この確率以下なら羊水穿刺をするメリットがないので、NIPTでスクリーニングをすべきだ、などという極めて珍妙な議論が学会でなされています。300分の1で胎児異常を見逃してしまうことと、300分の1で流産してしまうことと、一体、何の比較になるのでしょうか? まあ、社会は論理で動かず、角を立てずに時代に流されながら生きていくのが人生というものではありますが、自ら生殖については妥協をすべきではないと私は思いますね。ポリコレの言説に絡め取られることなく、自分にとって真に意味のある選択をされることを願っています。 弊院では積極的に胎児診断に取り組んでいます。この度、オーク住吉産婦人科にGE社のVoluson E10 という超音波診断装置を導入しました。最新鋭の機種で、正直、いい値段がするので購入を迷っていたのですが、最終の検討のつもりで今回の学会に参加しました。 Voluson E10 による診断技術について各国からの発表を頑張って勉強した上でGE社の展示スペースに出向いたのですが、ウィーンの学会になぜか日本の営業担当者がいて、最後は「お値段も頑張って勉強しますから」ということで、購入となりました。
















船曳ドクターが書籍を出版しました

事務部よりお知らせです。

当院の船曳美也子ドクターが、10月5日に「あなたも知らない女のカラダ 希望を叶える性の話」(講談社)を出版しました。

妊娠、出産、不妊治療、閉経、体外受精などの最先端医療について、すべての世代の女性に知っていただきたい内容だけでなく、男性にも、女性の身体への理解を深めていただける内容になっています。
次のWebマガジンでも、船曳ドクターのインタビューとともに、書籍が紹介されました。

クーリエ・ジャポン
https://courrier.jp/news/archives/99522/

おとなスタイル
http://otona-stylemag.com/posts/living/19112.html

当院のフロントや、全国の書店、Amazonなどで好評発売中です。
ぜひご一読ください。















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2017年6月2日金曜日

週刊文春に船曳ドクターのインタビュー記事が掲載されました

事務部よりお知らせです。

船曳美也子ドクターがインタビューを受けた週刊文春六月八日号が発売されました。
記事タイトル「『卵子凍結は20代で』は本当か?<高齢出産の真実>」
是非ご覧ください。

週刊文春インターネット版はこちらです。
http://ch.nicovideo.jp/shukanbunshun/blomaga/ar1275483














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2017年4月28日金曜日

子宮内膜着床能についての講演をしました

医師の田口早桐です。

4月22日土曜日ホテルモントレグラスミアにて講演会があり、講師を務めさせていただきました。【女性医師による不妊治療を語る会】で、私の演題は「子宮内膜着床能検査ERA(endometrial receptivity array)の現状と課題」でした。

その他典子エンジェルクリニックの舩越典子先生による「薄い子宮内膜による着床不全を改善する薬物療法」という講演と2演題。

小規模な会ながら、座長はあの、二段階胚移植を考案された後藤レディースクリニックの後藤栄先生。内膜の着床能を高めることが、なんといっても今一番のARTにおける課題。喧々諤々、議論が大いに盛り上がりました。

他の参加メンバーは当院からは船曳美也子先生、上本町レディースクリニックの橋本弘美先生、天神橋ゆかこレディースクリニックの頼裕佳子先生、ちかえレディースクリニックの田所千加枝先生と、大阪最強の女医さん達が集合しました。皆さん、オーク会と連携を取って、不妊治療に力を入れている先生方です。

後藤先生の考案された二段階胚胚移植法やsheet法で着床の窓が広がるという基礎研究データがあります。当院でも取り入れていますが、まだERAとの関係は明らかになっていません。今後の課題がいろいろ見えてきましたので、有意義な会でした。











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2017年3月22日水曜日

保護主義

理事長の中村嘉孝です。

先日、ローマで開かれていた”17th World Congress on Human Reproduction”という生殖医学の学会に出席してきました。

それと特には関係ないのですが、先ほど、欧州訪問中の安倍首相もローマに到着、ジェンティローニ伊首相と会談した、という報道がありました。両首相は5月にイタリアで開かれるサミットで、保護主義に対抗するメッセージを打ち出すことで合意したとのこと

EUでは英国の離脱、アメリカではトランプ大統領と、世界中でグローバル化への反動が見られます。長い視点で見ればグローバル化による国際分業が経済成長につながるはずですが、その途中で経済的に取り残されてしまう人が出てくるのは間違いありません。反発が出てくるのは当然の成り行きでしょう。

また、グローバル化の批判でよく出てくるのは、海外の税制を利用した企業や富裕層の課税回避。私の知人にも、税金のために海外に移住している資産家の方が何人もおられます。私はローカルな仕事をしていますし、逃げるほどの資産もないので相変わらず大阪の下町に暮らしています。ですので彼らと会うたびに、「金のために祖国をないがしろにするとはけしからん」と言っているのですが、正直なところ、もし私が彼らの立場だったとしたら同じことをするだろうな、と思います。しかし、このようなことはグローバル化によって起きる問題というより、むしろグローバル化が進み、国際的に税のルールが統一されれば解消されることです。

実は、生殖医療の分野でも似たような現象があります。ご存知のように、卵子・精子ドナー、代理母、着床前遺伝子検査(PGS/PSD)、同性カップルなど、規制は国ごとにまったく異なります。日本の学会の規制も特異ですが、EU内でさえ国ごとに規制はバラバラです。経済活動と違って倫理観が根拠になっているので、グローバル化して統一しようという機運にならないのですね。

結果どうなるかというと、本当に治療を必要としている人たちは、国境を超えて治療を受けに行くようになります。現実的に国境をまたげば何でもできるわけですし、すでに多数の方々がそうしいます。ですから、私は早々に規制を廃止していけばいいと思うのですが、そうならないですね。むしろ、規制は強化され、複雑化していく一方。

経済の保護主義もますます盛んになる気配ですが、所詮お金のためだけにさえ人は国境を越えるのですから、子どもを持つとういう遥かに重要な人生の選択を阻む規制があるのであれば、国境を越えて治療を受けることを、私は当然のことだと思っています。

さて、今回の出張はスリが多いイタリアなので、準備にスーツの下に貴重品を身に付けるものをAmazonで注文したところ、刑事ドラマに出てくるショルダーホルスターのようなものが届きました。どうなるかな、と思いつつ出掛けたのですが、帰りの空港のセキュリティで止められました。
ボディチェックのために両手両足を拡げたら、
「違う。両手を前に出して」
犬みたいに両手をそろえて前に出さされ、何をするのかと思うと指先を試験紙のようなもので丹念になでられました。そして、その紙を奥にある計測器らしき機械に入れて何やら調べている様子。それを何度か繰り返して放免されましたが、こんな奇妙な保安検査は初めてです。何事かと思って後で、ネットで調べたら、硝煙反応の検査でした。

国境を越えるのに下らない冗談をするものではないと、つくづく反省をした次第です。





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