2015年4月20日月曜日

腰砕け

理事長の中村嘉孝です。

ある女性漫画家がエッセイで書いていたのですが、夫婦の口げんかでは自分の方が圧倒的に強いとのこと。ご主人はけんかの原因について理詰めの攻撃をしてくるけれど、自分は「そんなことより、脱いだ靴下をきちんと片付けたらどうなの!」とか、まったく論点と関係ない攻撃で意表を突く。そうすると、旦那はどう言い返していいか分からなくなり、腰砕けになってしまう、という話でした。

さて、卵子凍結に反対の立場の方々のよくある主張の一つに、「成功率が低いから」というのがあります。「卵一個あたりの妊娠率が10%程度で、体外受精に比べて妊娠率が低い」というのですが本当にそうでしょうか?体外受精の妊娠率は、胚移植(ET)当りで計算します。つまり、ETできるところまで成長できた受精卵だけについての話です。

まず、採卵できたからといって、すべての卵が受精するわけではありません。「でも、顕微授精(ICSI)だったら100%受精するんじゃないの?」と思われるかもしれませんが、「受精」は「授精」とは違います。精子が卵子の中に入っただけではなく、卵子が活性化されて第二減数分裂を完了、その後、卵と精子それぞれが遺伝子の入った二つの前核を形成して、はじめて「受精」したといえるのです。

さらに、受精した卵は分割して成長していきますが、その途中で分割がストップしてしまう卵がかなりの割合であります。ETに適したところまで分割して着床する割合を考えると、別に卵子の凍結をしたから妊娠率が下がって10になっているわけではないことは明らかでしょう。

不妊症の医学的な定義では週一回程度の交渉を続けているのに2年間続けて妊娠しない場合とされています。これは、普通に生理のある方なら少なく見積もっても10回以上はタイミングが合っているということになります。

仮に卵一個の妊娠率が10%としても、30個の卵が保存してあれば、その中から少なくとも一人の子どもができる確率は96%です。ですから、「卵子凍結の卵一個当りの妊娠率が低い」とかいうのが、どれほど的外れな話かお分かりいだだけると思います。

そして、もっといえば「成功率が低いから」ということ自体がトンチンカンな理屈なのです。これが論点のすり替えであることは、いうまでもありません。クローンのときにも「成功率が低く、未熟な技術だから禁止すべきだ」という理屈がありましたが、科学的な議論をしているように見せかけながら、自分の道徳観を語っているのです。

最近もこんなニュースがありました。

こういったご主張を伺うたびに「そんなことより、靴下を片付けてよね!」と言われているような気がして、腰砕けになってしまいます。まあ、たしかに靴下は片付けた方がいいとは思いますが・・・。